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主要な価値創造モデルとその評価(87):戦後日本のドル収入最大化モデルー33

 戦後日本のドル収入最大化モデルの大きな問題は、わが国を代表する大企業が、「良い物を、安く、大量に」輸出しまくることを、あたかも経営の目的関数であるかのように位置付け、その達成のために本来最大化を図るべき投下資本収益性、就中株式資本の収益性を犠牲にしてきたことでした。すなわち輸出大企業は、競争の武器として、あえて収益性を犠牲にした「低収益戦略」を取ってきたのです。輸出製品市場に欧米企業が忌み嫌う低収益競争によって殴り込み、市場シェアを獲得して、維持、拡大してきたのです。
 このコラムで指摘してきたように、資本主義市場経済の下での企業の価値創造活動の必要条件は、投入した資本に対するリターンが、資本コストを上回ることです。便宜的に簿価の収益性指標を用いて説明すると、総資本利益率(ROA)>加重平均資本コスト、株式資本利益率(ROE)>株式資本コストというのが、想定される関係です。戦後から80年代ごろまで、長期国債利回りや銀行の1年定期預金の金利は、5-6%のレンジにありました。したがって、税引き前の無リスク金利は5-6%、株式リスクプレミアムを4%と低く見ても、当時の(税引後の)株式資本コストは9-10%、、実効税率を50%とすると税引き前では18-20%だったと推測されます。また、平均自己資本比率を50%とすると、(税引前)加重平均資本コストは12-13%にもなっていたと考えられます。
 下の表は、これを必要リターンの目途として、日本政策投資銀行の財務データを用いて、1960年から2000年にかけてのリターンの実績値と比べたものです。ここで、税引き前総資本利益率の指標として、「経営資本営業利益率」を用いることにします。これは、営業利益を「流動資産+固定資産ー建設仮勘定ー投資その他の資産+割引譲渡手形」で割った指標です。
      総資本利益率(税引前)   R O E(税引後)
      (必要水準:12-13%)  (必要水準:9-10%)
1960        9.9              9.8
1965        6.7              7.6
1970        8.4             12.9 
1975        4.8              6.1
1980        7.4             11.9
1985        5.8              8.2
1990        5.5              7.2
1995        4.0              4.0
2000        5.0              4.4
(出所)日本政策投資銀行「”財務データ”で見る産業の40年」

 ここに示されるように、わが国大企業の総資本収益率は、一貫して加重平均資本コストを下回っていたことが分かります。とりわけ80年代になると必要水準の半分以下に、そして90年代には3分の1程度にまで低下してしまたのです。
 次に株式資本収益率(ROE)ですが、戦後自己資本比率を極端に低く維持することによって、何とか必要水準を上回る努力をしてきました。増資の条件として、払込み資本金利益率を15-20%に保つことが求められたのは、既述の通りです。この結果、平均ROEは好調な年には必要水準を少し上回り、不況時には下回るという状態が定着していました。
 しかし80年代に入ると、一方では円高対応でさらに収益性を低め、他方では時価発行増資への移行で自己資本比率が高まったため、ROEも常に必要水準を下回る状態が定着したのです。バブル崩壊後の90年代には、その状況は一層悪化しました。
 このように株価が高騰した80年代を通して、総資本利益率は言うに及ばず、ROEもまた恒常的に資本コストを下回る、「価値破壊経営」が平然と行われていたのです。その必然の報いとして、90年代に入ると株価が暴落して、長期にわたる株価水準の訂正課程に入っていきました。そして現在もまだその後遺症は残っており、株価は80年代末のピーク水準の半分弱の水準で推移しているのです。」」
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