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主要な価値創造モデルとその評価(91):戦後日本のドル収入最大化モデルー37

 前回はわが国大企業が「ROE最貧国」を卒業し、同時にROEが株式資本コストを下回る「価値破壊経営」からも脱したことを取り上げました。最近の大企業の平均ROEは8-9%になっており、無リスク金利=1%、株式リスクプレミアム=5%とみると、わが国大企業が平均的には少しですがプラスの(株主)価値創造を行うところまで来たことになります。
 しかしこのシリーズの第35回で取り上げたように、欧米主要国の多くは平均ROEが安定的に10%を上回っています。2014年で見ると、アメリカ平均13.7%、スエーデン13.9%、オーストラリア12.3%、ドイツ11.2%、オランダ10%といった具合です。これに対して我が国は、1980年代の初めからROEの低下が続き、最近は改善していると言っても二桁台に乗せるところまでいっていません。平均ROEが株式資本コストを上回るようになったとはいえ、日本は依然相対的低収益国なのです。
 それというのも、低収益経営が許容されるとなると、国際競争上非常に有利にはたらくからなのです。高ROE国の競争相手に対して、それだけ売上マージンを引き下げることができるからです。販売価格を下げたり、広告宣伝費を増やしたり、アフターサービスを充実するなど、いろいろと都合のいい競争条件を享受できるのです。この結果、より限定的にではありますがわが国大企業は依然として戦後一貫して行ってきた低収益戦略を展開しているのです。
 急速に円高が進行した1980年代に、わが国企業の経営面でもうひとつ大きく変わったことがあります。日本企業は戦後一貫して、日本を生産拠点にして「良い物を安く、大量に」輸出して高い規模成長を続け、ドル収入最大化にまい進してきました。しかし80年代に入ると急速に円高が進んだため、いわゆる輸出主導の高成長が次第に困難になってきたのです。このため、80年代後半になると、多くの我が国製造業大企業は、輸出先での現地生産、人件費の安い途上国への生産拠点の移転に乗出したのです。下に示したわが国企業の対外直接投資額の推移がこの変化をよく示しています。

  わが国の対外直接投資額の推移

1981-85年平均   51億ドル
1986-90      321 
1991-95      207
1996-2000     256
2001-2005     351
2006-10     773 
(出所) IMF

 ここに示されるように、80年代前半は50億ドル内外だった対外直接投資額は、後半には年平均321億ドルへと急増しました。その後バブル崩壊後の失われた10年には200億ドル台へと低下しましたが、今世紀に入って再び大きく増えてきました。
 わが国大企業のこのよう生産拠点の海外移転の動きに対して、当時「日本の製造業は日本を見捨てるつもりか」などと言う批判にさらされました。これは何も日本に限られた批判ではなく、最近のアメリカのトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」が、まさにその現代版と言えるでしょう。しかしこれは短絡的でナイーブな自国優先主義そのもので、アダム・スミスの昔から資本主義市場経済の本質は「資本の動きはボーダーレス」であり、経済合理性に基づく最適地生産主義こそ有限の資源の最有効活用につながるのです。それを通して企業の価値創造額の総和が最大化されるのです。
 80年代以降の日本企業の急速な国際化は、わが国の国際収支構造にも大きな変化をもたらしました。このシリーズの第5-6回で取り上げたように、1980年代までは経常収支の大半は貿易黒字によるものでした。しかしその後我が国の貿易黒字幅は次第に収縮し、貿易外収支、すなわち「所得収支」の黒字が大きく膨らんだことは、すでに紹介した通りです。
 所得収支の黒字は、主として「投資収益」からもたらされます。そして投資収益は直接投資が生む利益と、証券投資が生む利益から構成されます。すでに紹介したように、2011-15年の年平均で見ると、所得収支の黒字は17.3兆円にのぼり、その事実上すべてが投資収益によるものでした。その中、直接投資収益が6.2兆円、証券投資収益が10.5兆円となっています。
 このように、持続的な円高基調が続く中で、日本は引き続き相対的低収益経営を持続するjことによって輸出を伸ばし、他方では対外直接投資と証券投資を積極的に行うことによって、今日まで大幅な経常黒字を維持してきたのです。戦後の国策としてのドル収入最大化政策は、中身こそ変わってきましたが健在なのです。」」
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