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主要な価値創造モデルとその評価(90):戦後日本のドル収入最大化モデルー36

 前回は日本の大企業がようやく「ROE最貧国」を卒業しつつあることを取り上げました。同時に日本企業は、低収益経営と裏腹であった「(株主)価値破壊経営」からも脱しつつあるのです。
 株式公開企業の経営の最低条件は、総収入 - 総コスト >0というものです。そして資本主義市場経済のもとでは、価値創造のサイクルはリスク資本、すなわち株主から集めた株式資本の投入に始まり、株式資本へのリターンの確保によって一巡します。したがって、1期間の経営評価の最低の判定基準は、投入した株式資本のコストをカバーするに足る(株主への)利益を生み出したかどうかになります。したがって、その期に企業が株式資本コストをカバーするだけの利益を生んだかどうかを計測することが、評価の基本になるべきでしょう。
 ところが、世の中で一般に使われる第一義的な経営の評価基準は、財務会計制度に基づく報告ルールです。そして財務会計制度は、肝心かなめの株式資本のコストを認識しないのです。これは企業の価値創造パフォーマンスを測るうえで、致命的な欠陥です。したがって、財務会計制度では何がしかの税引き利益を計上していても、株式資本コストを差し引くと、「赤字」経営の企業も非常に多いのです。
 もし企業が人件費を十分払っていなかったり、負債資本のコストである銀行借り入れや社債の利息を支払うに足る利益を上げていなかった場合には、赤字経営、デフォルト経営、債務不履行などと評価されるでしょう。しかし株式資本コストをカバーしていなくても、少なくとも日本では最近まで強く非難されることは全くなかったのです。
 しかし株式資本を含むすべての投入資源に対する正当なコストをカバーしていないとすれば、そうした企業は「フルコスト」ベースではコスト割れ経営状態、あるいは「デフォルト経営」状態にあるわけです。日本企業は戦後ずっとこうした経営を平然と行ってきたわけで、、私はこれを「価値破壊経営」と呼んで、警鐘を鳴らしてきました。
 株式資本のコストは、経済学的には投資家の平均的な「「機会コスト」と認識されます。現金で流出する原材料費や人件費、耐用年数表から簡単に計算できる減価償却費などと比べると、株式資本コストは抽象的で推計も簡単ではないのです。このブログの随所で取り上げてきましたが、株式資本コストは通常あのCAPMモデルを用いて、 無リスク金利 + 株式市場リスクプレミアム という形で推計します。無リスク金利としては一般に長期(10年物)国債の利回りを用い、また株式市場リスクプレミアムとして私は4ないし5%が適切と考えています。
 ところで、無リスク金利に関して、2000年以前とそれ以降で様変わりになったのです。私が現役バリバリの頃は、代表的な無リスク金利指標である銀行の1年定期預金や国債の利回りは、ずっと5-6%という水準が定着していました。それがバブル崩壊後の銀行システムの破綻とデフレ経済体質の定着によって、大幅に低下したのです。最近では、日銀によってマイナス金利政策が導入され、投資家にとっての無リスク金利も1%以下に低下してしまったのです。下に示す10年物国債の年平均利回りの変化が、その劇的な変化を端的に示しています。
 仮に無リスク金利として現状ではやや高めの1%を、またリスクプレミアムとして5%を用いて推計すると、現在の我が国の株式資本コストは 1+5 = 6% となります。前回紹介したように、最近のわが国大企業の平均ROEは7-9%のレンジにありますので、少なくとも平均的には株式資本コストを上回る利益を生み出すところまで来た、と言うことができるのです。最近になって初めて、日本の公開企業全体としては、フルコストをカバーして多少なりともプラスの価値を生み出す経営を行う所に来たわけです。長年この問題を指摘してきた私にとっては、大きな1歩前進と言える変化なのです。」」

       10年物国債の利回り推移(%)
1990  6.7   2000  1.7   2010  1.2
1991  6.3   2001  1.3   2011  1.1
1992  5.3   2002  1.3   2012  0.9
1993  4.3   2003  1.0   2013  0.7
1994  4.2   2004  1.5   2014  0.6
1995  3.5   2005  1.4   2015  0.4
1996  3.1   2006  1.8   2016  0.0
1997  2.4   2007  1.7   2017  0.6
1998  1.5   2008  1.5
1999  1.7   2009  1.4
 
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