SSブログ

主要な価値創造モデルとその評価(83):戦後日本のドル収入最大化モデルー29

 前回は額面発行、安定配当制度が、株式を安定保有し、原則市場で売買しない大株主であった銀行や大手金融機関の必要収益率が10%前後だったことに応えることを主目的に定着したものでした。つまり、株主割当て、50円額面払込み、1株5円配当を維持することによって、安定株主が常に増資に応じてくれる条件を担保したのです。
 一方、株価を形成の主役の個人投資家にとっては、必要収益率は機関投資家よりはかなり低く、例えば定期預金利率並みの5%程度と考えられました。すると50円払込み、5円配当を約束する大企業の普通株は、疑似確定利付債券、あるいは優先株に近く、100円前後の理論価値を持ったのです。したがって当時の株価は、額面をかなり上回る水準で売買されていました。安定保有の金融機関株主にとっては、いわゆる「含み益」が恒常的に存在する状態になっていたのです。
 さて、当時の単純平均株価は、ほぼ一貫して100と200円の間で変動していました。ほとんど常に、上記の理論価値をかなり上回っていたのです。その理由は次の通りです。額面発行時代には、安定配当と並んで、もう一つの約束事がありました。増資の際は額面あるいはそれ以下の株価で、既存株主に優先的に払込み権(優先募入権と呼ばれました)を認めるというものでした。既存株主が何らかの都合で失権したものに限り、時価に近い株価で公募されたものでした。そこで、流通市場で売買する個人投資家にとって、1対1の額面増資が行われる場合の採算を考えてみましょう。
 100円の市場価値を持つ普通株が、払込金額50円で追加にもう1単位取得できるのです。もちろん増資後も5円配当が維持されることが大前提です。この結果、50円払込み権は50円の市場価値(オプション価値)を持つことになります。つまりこの払込み権は、行使の自由を持つ一種のコールオプションだったのです。この結果、流通市場における既存株式の理論価格は、100円プラス50円、すなわち150円になります。実際当時は増資権利付き最終株価は、ほぼこの理屈通りに動いていました。権利を行使する株主は50円払いこんで100円の価値のある株式を手にし、行使しない株主は手持ち株を150円で処分してやはり50円の現金を手にしたわけです。
 もちろん、権利行使日が過ぎると単純株価は権利落ちして、この例では100前後に下落します。しかし権利を行使した投資家の手元には、もう1単位の株式があるわけです。
 この理屈を敷衍すると、経営が順調な大企業の場合には、当時は3年おき、遅くとも5年おきには次の増資が期待されました。したがって合理的な市場なら1回きりの増資の権利だけではなく2回あるいは3回程度の増資期待を織り込んだ株価形成が行われるのが自然だったわけです。したがって当時でも優良銘柄の中には、200円台、あるいは300円台の株価がついているものもありました。しかし予見しうる将来10年ぐらい先までの増資可能性をいくら織り込んでも、平均株価が500円とか1,000円まで買えるなどとは考えられなかったのです。」」
 


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。